思い出の多い一年間

昨年の12月3日、上野公園にある創作中国料理の旦妃楼飯店で、2019年度の講師会兼忘年会を開き、関東在住の先生方が出席しました。

去年は平成から令和に変わり、本草薬膳学院は設立してから17年となりました。昨年から学校の体制は新しく「株式会社本草薬膳」となり、仕事を少しずつ整理して責任を分担し、教務部と事業部を作りました。職員の皆さんは引き続き協力しながら順調に業務に勤しんでいます。

昨年も東京本校、福岡教室、大阪教室、名古屋教室において「中医薬膳師」の基礎教育を行い、東京本校では更に実力をつける研究科の教育も充実し、新たに「西洋医学・疾病研究科」や「ツボ講座研究科」、「弁証論治基礎研究科」も開講しました。 

通信生・オンライン生の増加に伴い、一昨年の夏期・冬期スクーリングでは教室が満員でしたので、それを緩和するために秋期スクーリングも設けました。また認定講師の個人教室から家庭薬膳アドバイザーが誕生しました。

公開講座もますます充実しています。中国語講座は初級だけでしたが、継続して学習している方のために中級も増設しました。気功の講座も継続して開講し、お菓子を楽しむ・中国料理・イタリア料理講座などの公開講座は好評で定着した講座となりました。薬膳1dayレッスンは薬膳の入門講座として開設しました。更に大学の教授をお招きして公衆衛生学の講座も行い、幅広い知識の向上に繋がるよう考えました。

また昨年から新たに「卒業生の活躍」というシリーズを計画し、まず薬剤師の卒業生に依頼して「がんの中医学養生」の講演会を開き、大変好評を得ました。

毎年恒例の国際薬膳師試験や国際中医師試験も予定通りに行われ、多くの合格者を送り出しました。他にも学院の窓口としての役割もある季刊誌「本草つうしん」を引き続き発行しています

それから学院監修の「薬膳コーディネーター講座(株式会社ユーキャン)」は7年となり、数多くの受講生が修了しました。

2017年に世界中医薬学会聯合会と契約した『中医基本名詞術語中日英対照国際標準』の翻訳、編集は学院が中心となって編纂し、約2年かけて10月に正式に出版(東洋学術出版社)しました。

他にも食薬の販売方法などを職員たちが工夫して、少しずつ売れるようになりました。

2019年は本当に収穫が多い、充実した思い出の多い一年間になりました。これらは講師と職員が力を合わせた努力によるものです。

今年の4月には広島教室と大阪教室の土日コース、福岡・大阪研究科を開講する予定です。また学院のInstagramと、Facebookの開設を目指して準備中で、主に公開講座の情報、薬膳料理の紹介などの発信を予定しています(時期未定)。

より専門性の高い、本格的な中医薬膳学の教育を普及するという目標を達成しながら、学院は発展し続けています。改めて講師の先生方と職員の皆さまにお礼を申し上げます。

もうすぐ新学期です。令和2年にあたり、講師の先生方のさらなるご活躍をお祈りし、昨年同様ご指導いただき、引き続きご協力をお願いいたします。

薬膳料理で元気に過ごしましょう‼

今年も旧正月(1月25日)の時期に中国からの旅行客を迎えるため、商店街やデパート、観光地では沢山の商品を用意し準備していました。

しかし、中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(新型冠状病毒肺炎)のニュースが台風のように入ってきました。2月10日までに中国で診断された患者数は40,235例となり、全快した数は3,283例ですが、死亡数909例となっています。この新型肺炎は中国から多くの国に及び、世界公衆衛生の緊急問題となっています。

各国から、特に日本政府や民間企業、団体から多大な支援を中国に送っています。私も日本中医協会の仲間と一緒に、物資や集まったお金を中国に送り、微力しながら応援をしています。

中国では西洋医学の治療以外に国家中医薬管理局が臨床の専門家が集まり、『傷寒雑病論』の麻杏石甘湯・射干麻黄湯・小柴胡湯・五苓散のいくつかの処方を加減して作った「清肺排毒湯」(麻黄9g 炙甘草6g 杏仁9g 生石膏15~30g(先煎) 桂枝9g 沢瀉9g 猪苓9g 白朮9g 茯苓15g 柴胡16g 黄芩6g 姜半夏9g 生姜9g 紫菀9g 款冬花9g 射干9g 細辛6g 山薬12g 枳実6g 陳皮6g 藿香9g)を提案し、一日1剤、水で煎じる、食後40分間温服、一日朝晩2回、3日間1クールに設定し、投薬を行いました。

山西省(感染症119名)・河北省(感染症218名)・黒竜江省(感染症331名)・陝西省(感染症213名)の発熱・咳・のどの痛み・倦怠・食欲がないなど、影像検査で診断された新型コロナウイルス感染症の患者214名に、1月27日から2月5日までの10日間で治療した結果、60%以上の感染者の症状と影像検査が著しく改善、30%の症状が安定し悪化しなかったとのことです。総有効率は90%に達成しているので、この処方を各地に推薦し、西洋医学と中医学の両方の治療を臨床に投入しています。

この新型コロナウイルスは人から人への感染をしますが、日本国内では現在、流行が認められている状況ではありません。このような時でも、通勤電車に乗る人々はほとんどマスクをしています。先日車内が乾燥していたため、のどが涸れて咳が出た時には回りの人々がすぐに避けて行き、苦笑しかできませんでした。

アメリカでは昨年の年末から現在までインフルエンザが流行り、21万人が入院し、死者数は1万2千人になっていることが産経新聞で報道されています。日本でも毎年インフルエンザのために1万人ぐらい亡くなっているそうです。

これらの疫病は国立感染症研究所がまずは、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って口や鼻をおさえる「咳エチケット」や、石けんを使った手洗いなどの感染症対策を行うことが重要だと指導しています。

中医薬膳学としては、疫病の予防として、“正気存内、邪不可干”(体内に体を守る正気があれば邪気の侵入ができない)という教訓があります、病気になるかならないか決定する要素は正気、いわゆる免疫力、身体が持っている病気に対する抵抗(防衛)力と環境の変化に適応する調節力が鍵となります。

この免疫力を高めるために気を補うことは大事です。漢方の「四君子湯」「十全大補湯」「人参養栄湯」「補中益気湯」など、日本の健康保険が使える方剤があります。また、「玉屏風散」(黄耆 白朮 防風)も使えます。

食事は薬膳の料理を薦めます。まず正気を補う食材を選び、免疫力を高めます。それから補った気をよく巡らせ、営養させるために血を補い、体を温める食薬を選びます。下表を参考にしてください。

分類

食材

中薬

気を補う

糯米 粳米 南瓜 隠元 長芋 じゃが芋 キャベツ カリフラワー 椎茸 栗鶏肉 牛肉 うなぎ いわし たら すずき 石持 カツオ さば 鮭 蜂蜜

なつめ 人参 白朮 黄耆 党参 甘草

血を補う

ほうれん草 にんじん いか 葡萄 たこ

当帰 熟地黄 芍薬 竜眼肉

温める

生姜 葱 大葉 玉葱 らっきょう 蜜柑 唐辛子 にら 胡椒 黒砂糖

肉桂 陳皮 青皮

枳実 枳殻

尚、上述の食材と中薬を使って薬膳料理を作る時には、ごはんやお粥、スープ、煮物、炒め物などできるだけ温かい料理をお勧めします。美味しくて温かい薬膳料理を食べれば、体力が高まり、穏やかに日々を過ごすことができます。

もう立春を過ぎましたので、気候は少しずつ温かくなります。新型コロナウイルス感染症もそのうちに消えていくでしょう。みんな、薬膳で元気に頑張りましょう!

薬膳の花咲く

秋葉原駅で“白子駅までのチケットをください”と切符を売る駅員さんに頼みました。しばらくしてから駅員さんが私に“この駅はどこですか? ”と逆に尋ねました。めったに人が行かないあまり知られていない駅だと覚悟しました。東京駅から新幹線に乗り、名古屋駅で近鉄特急に乗り換え、3時間かけて白子駅に着きました。土曜日の白子駅周辺には人がほとんどいなくてとても静かです。

北京中医薬大学の後輩が鈴鹿医療科学大学に務めています。鈴鹿医療科学大学に属する「日本薬膳学会」の第6回学術総会開催通知(2019年12月)を北京中医薬大学の同窓会に送ってきました。どのような学会?どのような活動をしているの?興味津々で申込みしました。好奇心でワクワクし、学習と交流ができればとの気持ちを抱いて白子キャンパスの会場に入りました。熱気溢れる第一、第二会場はほぼ満席です。参加者は400人ぐらいいそうです。駅前で見た静かな町を思い出し、この人たちは一体どこから湧いて出て来たのかしら?と不思議でした。東京から来た何人もの学者の先生方の講演や、イタリア料理人の発表、教員と学生達の調査発表もありました。やはり来てよかったと思い、たくさんの知識を収穫でき、大変啓発されました。

「日本薬膳学会」の代表を務める高木久代教授と浦田繁教授に初めてお目にかかりました。薬膳についての話で盛り上がりました。また中国からの来賓の中に湖南中医薬大学の譚興貴教授のご夫妻と北京中医薬大学の張清怡先生の姿を認め、実に10年ぶりに再会しました。他にも私が書いた専門書の熱心な読者の先生方にお会いできたことは予想外に嬉しかったです。

多くの知識を学んで、友人たちと交流し、美味しい薬膳を食べた楽しい1日は東京に帰る新幹線の車内で終わりました。薬膳の花は世の中のいろいろなところに咲き続けています。