夏と温病

 5月5日に立夏すると、気候は春から一気に暑くなります。 南風が熱気を巻いて吹いてきて、花が鮮やかに咲き、樹木は新緑から茂って盛り上がります。

 この時、中医薬膳学では、暑い季節で、自然界の邪気として暑邪が中心になり、湿邪や風邪も流行ってきます。 温病の考えから夏の暑温・伏暑・湿温の病名がついています。

 3月に春と温病の衛分証を説明しました。 今回は夏と温病の気分・営分について説明します。

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1.気分証

 暑邪や風邪の熱の邪気が体内に入って気機を障害する病証であり、肺・胸膈・肝・胃・腸などの異なった部位の病変に応じた症候がみられます。 以下に代表的な病証を示します。

 

  1. 邪熱阻肺
    【症状】
    発熱・大渇・汗多・咳・呼吸促迫・胸苦しい・胸痛・舌質が紅・舌苔が黄・脈滑数など
    【病機】
    邪熱が肺経気分に入って熾盛になり、肺の宣粛を阻滞している状態
    【治法】
    清熱宣肺平喘
    【代表方剤】
    麻杏甘石湯(麻黄 杏仁 甘草 石膏)
    【中薬】
    清気の石膏・竹葉・寒水石、宣肺平喘の杏仁・枇杷葉・前胡・桔梗などを配合する

     

  2. 陽明熱盛
    【症状】
    高熱、大渇・喜冷飲・顔面紅潮・多汗・舌苔が黄で乾燥・舌質が紅・脈が洪大など
    「大熱・大渇・大汗・脈洪大」の四大主症が特徴である。
    【病機】
    熱邪が陽明に入って邪正が激しく相争し、裏熱が熾盛のため津液を灼消するとともに汗として外泄させ、傷津を引き起こしつつある病態である。 傷寒の六経弁証における陽明熱盛と同じ状態であるが、熱勢はより激しく傷津も速やかである。 汗とともに気も外泄するために気陰両傷が性じると・口渇が増強し元気がない・息切れ・脈が洪大無力などを伴う。
    【治法】
    清熱保津
    【代表方剤】
    白虎湯(石膏 知母 粳米 甘草)
    気陰両傷には白虎加人参湯を使用する。
    【中薬】
    清気と清熱生津の麦門冬・石斛・芦根・天花粉・甘草・知母などを配合する
    気陰両傷には益気生津の人参・西洋参などを加える

     

  3. 熱結腸胃(陽明熱結)
    【症状】
    午後発熱・時にうわごと・便秘あるいは悪臭のある水様下痢・腹満・腹痛・拒按・舌苔が黄~焦黄~黒で乾燥あるいは芒刺・脈が沈で有力など
    【病機】
    陽明で熾盛になった邪熱が腸内の糟粕と結びついて燥尿を形成し、腑気を阻欝し神明を上擾する病態である。 傷寒の六経弁証における陽明熱結と同じ状態であるが、邪勢がはげしく傷津も顕著である。 傷津が甚だしいと、舌の乾燥がつよく脈が沈細
    【治法】
    攻下熱結
    【代表方剤】
    承気湯(大承気湯:大黄 芒硝 厚朴 枳実)
    小承気湯(大黄 厚朴 枳実)
    調胃承気湯(大黄 芒硝 甘草)
    増液承気湯(玄参 麦門冬 生地黄 大黄 芒硝)

 

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札幌での講演会

 北海道というと、まず、「北国の春」という歌が浮かんできます。 故郷への恋・家族への思い、メロディーが美しい曲で、北海道の大自然を綺麗に写しています。 これも私の頭の中にある北海道の風景で、花―特にラベンダー―・雪の世界です。このような広い土地で、じゃが芋・とうもろこしなどの野菜、魚・カニなどの魚介類など、食べ物が豊富なところです。

 さる4月17日に卒業生の方が経営しているクリニックの「第109回健康教室」の講師を依頼され、「老化防止から認知症を予防する」テーマについて講演するために、札幌へ足を運びました。 桜が落ちて新緑の東京から札幌に入るとまた冬の景色で、遠方の山に雪がいっぱい積もり、桜は蕾が少し膨らんでいる状態です。 タクシー運転手さんによれば、5月のゴールデンウィークの前後に咲くのではないかということでした。

 参加者はこの病院の患者さんが中心であるという話でした。病院の2階コミュニティホールに続々に入る参加者をみると、身体が老化して中年以降の方が多かったので、認知症を予防することを気にしている方々だと思いました。

 中医学では年齢を女性の7の倍数と男性の8の倍数で計算します。 また、10歳の段階で計算する方法もあります。 加齢とともに五臓六腑に変化が生じ、身体に老化現象が目立って現れてきます。 痴呆症を予防するためには、早めに老化防止から着手するべき、特に五臓六腑の腎を大事にすることです “腎者主水、受五臓六腑之精而蔵之。故五臓盛乃能瀉。今五臓皆衰、筋骨解墮、天癸尽矣。故髮鬢白、身体重、行歩不正、而無子耳。”のように古典の話を理解しました。 当日は調理実習もあり、鶏の当帰黄耆蒸し・胡桃クコ粥・五香麺茶の3種薬膳メニューを作り、みんなで試食しました。札幌講演

 参加者から作り方は簡単で、色取りも綺麗で、美味しくて、今回の健康教室に参加してよかったという感想が多く、嬉しかったです。

 講演会が終わってから、主催者の先生といろいろ話しました。 北海道、日本での中医薬膳学の普及にぜひ、卒業生の皆さんと協力しあい、一緒に頑張っていこうとますます思うようになりました。

 

 

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花見

 毎春、休みの日に近所の隅田川沿いの川辺を散歩しながら桜を観賞するのが慣例です。 しかし、今年は、忙しくてなかなか休みを取れないか、休日なのに天気が悪くて家にこもってしまうかの理由で、桜を見ることができませんでした。

 桜は公式には日本の国花ではないですが、国花のように扱われています。 毎年、春になると花見のシーズンになり、桜木の下にシーツを敷いて人が集まり、飲んだり・食べたり・しゃべったりして楽しんでいる風景がよく目に入ります。 近年、花見の季節になると外国から多くの観光客も桜を見るために、わざわざ日本に訪ねてきます。 自然界は、花が咲き新芽が出ている綺麗な環境で、人々が平和に生活をしていることは幸せだと思っています。3a838a6adbc3ccf9c22ae4c7bdb79187_s

 ある日、友人から「桜のルーツは中国にあるよ」と言われた時、好奇心をくすぐられて桜を調べました。

 現在、桜は世界に広く分布していますが、主な国は日本になっています。 その桜の原産地はヒマラヤ山域で、野生品種は約150もあり、中国では50種類以上となっています。 2000年以上前の秦と漢の時代に、宮廷内に観賞用として既に植えられていました。 唐の時代になってから民家の庭まで広がりました。 その時に遣唐使が、中国の文化の一つとして桜を日本に持ち帰り、改良させて日本の特色のある桜を培育し、世界で桜の有名な国になりました。5d4ee66f1e35f83ce884039f35d6ef3b_s

 『本草綱目』には、桜は櫻桃の項で記録されています。 “時珍曰、櫻桃樹不甚高。 春初開白花、繁英如雪。 葉団、有尖及細歯。 結子一枝数幾顆、三月熟時須守護、否則鳥食無遺也。 塩蔵、蜜煎皆可、或同蜜搗作糕食、唐人以酪荐食之。” 本の中に、桜の木・花・実、実の食べ方について記録されています。 実の櫻桃の効能について“気味は甘・熱・渋・無毒。 「大明曰」平・微毒。 主治は調中、益脾気、令人好顔色、美志、止泄精、水穀痢。”と書いてあります。 櫻桃は、美味しいですが、熱性のため、食べ過ぎると嘔吐、発熱を引き起すことも記載されています。 “櫻桃葉は甘、平、無毒。 蛇に噛まれる時に使う。” “枝は、雀卵斑…、花は、面黒粉滓。”ということが記載され、櫻桃の葉・枝・花は皮膚のトラブルを治療する効能も書いてあります。

 櫻桃の実は “櫻桃処々有之、而洛中者最勝。 其木多陰、先百果熟、故古人多貴之。”洛陽の櫻桃は最も品質のよい果物だと書いてあります。 宋の時代に「苦櫻」ともいわれ、“其苦不能食、雖鳥雀亦棄之”とあり、食べられないものもあることが分かります。 今、売っているサクランボはアメリカやフランスなどの品種を取り入れて日本で改良して定着したものです。

最後に詩を読みましょう 。

  1. 唐・白居易 : “小園新種紅櫻樹、閑繞花枝便当游。”
  2. 宋・方岳 : “山深未必得春遅、処々山櫻花圧枝。 桃李不言随雨意、亦知終是有晴時。”

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